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2.平成17年度事業報告

(5)和歌の浦フォーラム
月1回開催される和歌の浦フォーラムでの議論で以下の活動方針・活動内容を決定した。

(1)和歌浦東面の長期的景観保全計画の策定
(2)長期的視野のもとで景観保全活動の展開
(3)ワークショップ・シンポジウムの開催による活動の輪の拡大および景観保全活動に関わる計画条件の整理

以下本年度の活動によって得られた成果を各項目について具体的かつ詳細に述べる。

(1)和歌浦東面歴史的景観保全計画の策定
歴史的景観保全のためには、超長期的な景観保全策が必要とされる。
現行法制度では短期的な景観保全は可能であるが、中長期的な景観の保全が保証されないことが明確になった。そこで短期・中期・長期に分け、計画目標と目標達成手段を検討し、景観法と文化財保護法を適用することにより長期的に歴史的景観を保全しうることが明確になった。

(2)長期的視野のもとでの景観保全活動の展開
歴史的景観保全のためには、長期にわたる景観保全のための活動が必要になる。そこで短期・中期・長期に分け、活動目標・活動内容を検討し明確にした。
短期的には、景観保全計画の策定、中期的には、景観保全計画の実行性を高めるための法制度の適用、長期的には、計画を運営し、また地域定着させていくための日常的地域活動の検討である。

(3)ワークショップ・シンポジウムの開催
景観法を適用するためには関係者の3分の2以上の賛成が必要とされる。景観法の適用は、大なり小なりの私権制限を伴うから関係者の3分の2以上の賛成をうることは容易ではない。そこでワークショップを開催し、関係者の景観保全に対する理解・関心を高めることとする。ワークショップは相互の意見交換が可能で、討議の過程で出てきた問題等について集中的に討議することによって問題解決策を見つけだすことを容易にする。また景観法・文化財保護法の適用によって生じる規制内容についての具体的な意見交換により農家の意向が把握できることになり、景観保全上の問題を解決する可能性を見つけだすことも期待できる。また景観保全計画に際しての前提となる条件を整理しうることにもなる。
他方、シンポジウムは広範な人々に景観保全に対する関心を喚起するのに役立つ。また和歌の浦フォーラムの活動に対する意見交換により、和歌の浦フォーラムの活動が公共性を備えていく上での効果が期待できる。


1 和歌浦東面景観保全計画

和歌浦の最も大切な景観は、和歌浦地区内の景観ではなく、和歌浦東面の景観である。この景観は和歌川河口の水面と、名草山、長峰山脈と天空、大きくはこの三要素からなる大景観であり、今日もなお和歌浦の古代以来の文化史上の高い地位を偲ばせる十分な姿を保っている。本事業ではこの和歌浦東面の歴史的景観を保全していくための計画策定を進めた。

(1)計画目標
和歌浦東面は、水と山と空、この三層は殆ど水平の重なりからなる。この景観に形態的にも色彩的にも亀裂を入れるあらゆる行為を長期的に阻止することを保全計画の目標とした。具体的には、現地踏査および地形図の解析からシーサイドロード近傍で高さ10M以下の工作物であれば前述の目標を達成できることを確認した(資料−1参照)。
詳細に述べれば、和歌山市布引地区での建造物規制により保全計画の目標達成が可能となるのである。

(2)目標達成手段
布引地区は、一部住宅開発また国道42号線沿に商業開発がみられるが、大部分は農地と農業集落により構成されている。つまり、和歌浦東面の景観保全のためには布引地区の農地保全が最大の課題となるのである。布引地区に関わる開発規制手段としては、現行の法制度によるもの、また布引地区の農地所有者の自主規制によるものが考えられる。
現行法制度としては、都市計画法、農業振興地域の整備に関する法律(以下、農振法と略称する)。平成16年6月に制定された景観法、文化財保護法等がある。
以下各々の法律の布引地区の景観保全(農地保全)手段としての有効性について検討する。

1)都市計画法
布引地区は国道42号線沿の一部を除いて市街化調整区域に指定されている。市街化調整区域では、原則として大規模且つ計画的開発以外の開発は認められない。
布引地区は広範囲に農地が存在していることから大規模計画的開発の可能性があるが、後述する理由により大規模計画的開発はないと考えてよい。国道42号線沿の商業地区についても、容積率200%、建蔽率60%で先に述べた目標に影響を及ぼす恐れはない(資料−1参照)。

2)農振法
布引地区の農地の大部分が農振法の農用区域に指定されている。農用地区域は都市計画法の市街化調整区域以上に厳格な開発規制が行なわれており、農用地での開発はないと考えてよい。ただし、農業を営む上で必須となる農業用倉庫、また集落周辺での自家居住用住宅の開発は認められている。この場合も、高さ10m以下、建蔽率50%以下、容積率100%以下とされており、先に述べた目標に影響を及ぼす恐れはない。もちろん形態面、色彩面での規制はできない。形態・色彩に関する規制は他の方策を考える必要がある。
都市計画法と農振法とを組み合わせば先述した市街化調整区域内農地の計画的・大規模開発は阻止できると考えてよい。また和歌山市産業部農水課も布引地区は和歌山市の代表的な農業地区であり、営農に影響を及ぼす開発に対しては厳格に対応していくとの方針だとしている。これらを総合的に勘案すれば、布引地区での計画的・大規模開発の可能性は非常に低いと考えてよい。

3)景観法
景観の保全においては最も効果が期待できる法律である。しかしながら、和歌山市においては、関連する条令はなく、景観法を布引地区に適用するためには、和歌山市が独自に対応する必要がある。

4)文化財保護法
昨年文化財保護法が改訂され新たに景観も文化財保護法の対象として加わることとなった。同法の重要文化景観に指定されると固定資産税の評価額が半減されるという措置もあり、農業の継続を目指している布引地区の農家にとっては非常に魅力ある内容の法律である。法律の性格として、歴史的なものは重視され、また長期的保護・保全していくことが可能になる等、和歌浦東面の歴史的景観保全においては極めて魅力ある内容になっている。ただし、法改訂後、日も浅いこともあり、その詳細は現時点では明確になっていない。

5)農家による自主規制
布引地区の農業は根物野菜の生産においては、日本一といってよいほどの高い品質の野菜を生産している。当然農家の所得は高く、多くの農家が1000万円以上の農業所得を揚げている1)。
当然、農業継続意欲は高く、多くの農家が男子の農業後継者を有している。男子後継者がいない農家でも婿どりすることによって農業継続が実現されている2)。将来的にも多くの農家が農業継続するという意向をもっている。そのため、営農に障害をもたらすものに対しては、農家が一致団結して対応する面もみせている。これは一種の慣習法として機能し、農地保全においては法制度以上の効果が期待できる。また布引地区の農家は相続発生時に農地相続猶予制度の適用を受けるものが多い。同制度は、相続税の算出に際して農地については農地並みの評価することによって相続税の軽減を図ることを目的としている。同制度を適用した農地については20年間農地として利用することが義務づけられており、農地保全においては非常に有効な制度である。この制度も農家の自主的判断で対応できることから、自主規制に含めるのが適切であると考えられる4)。

註1),2),3),4) 布引地区の農家増田氏に対する聞き取り調査に基づくものである。
なお長時間にわたる聞き取り調査にご協力いただいた増田氏に心から感謝申し上げます。
増田氏は和歌山市の農業委員とJAわかやま、名草支所の理事を兼務されており、布引地区農家のリーダー的存在の人物である。

註4) 一度、地区内の農家が宅地開発しようとする動きがあった時、増田氏ら農家10人で営農に対する影響が大きいから開発を止めるよう説得したことがあったという話を増田氏からうかがった。この話は現在でも、農家の自主規制が機能していることを示すものである。

6)まとめ
以上、現行法制度を中心に歴史的景観保全策を検討した。検討結果をまとめると、以下のようになる。
  • 現行法制度からは、布引地区農地保全は当面可能と判断される。したがって、和歌浦東面の歴史的景観保全も可能と考えてよい。ただし、形態・色彩面での問題は残る。
  • しかしながら、法律は有効期間が限定されており、超長期にわたる景観保全を必要とする、歴史的景観の保全には自ずと限界がある。
  • つまり別途の保全策が必要とされるのである。

7)成果と課題
成果
現行法制度を活用すると和歌浦東面の歴史的景観保全は当面は可能である。しかしながら超長期の景観保全が必要とされる歴史的景観の保全においては、法の改廃により必ずしも有効でないことが明確になった。また形態・色彩に関する規制についての問題は残るがこれらの点については景観法での対応は可能で長期的には慣習法的に地区レベルでのルールを決めることによって対応していける問題である。

以上述べたように、長期・超長期的に対応方策を検討していくことが大きな今後の課題となる。具体的には、文化財保護法の適用である。文化財保護法はこの法律のもつ性格から長期に文化財の保護・保全を目指すものであり、同法の適用を受ければ中・長期にわたり和歌浦東面の景観保全が可能となる。しかしながら、同法の適用を受けるためには、当該地区が景観法の適用を受けていることが前提とされている。
したがって、まず第一に布引地区を対象とする景観法の適用を受けた上で、文化財保護法の重要文化景観としての指定を受けることが中・長期的課題となる。
超長期的な課題としては、文化財保護法的な性格をもつ法制度が廃止された場合の対応の問題である。これに関しては、布引地区の住民の歴史的景観保全に関する関心を喚起し、個々の住民の心に、マインドスケープとして歴史的景観保全を形成していくという方向性が考えられる。この場合、成人に歴史的景観に関するマインドスケープを形成することは大きな困難が予想されるので、一定の価値観が形成されておらず柔軟性をもつ小学生・中学生の時期に景観学習を行い、それを長期間続けることによって、連綿と歴史的景観保全というマインドスケープをもつ地区の人達を増やしていくという方向性が考えられる。
ただし、この方法は非常に困難なものでかつ極めて長時間を必要とするものである。

表−1 計画目標と目標達成手段

  計画目標 目標達成手段
短期的目標 景観法適用のための条件整理 先行する景観法適用地区を対象とする事例研究ワークショップによる景観保全関連の条件整理
中・長期的目標 景観法・文化財保護法の布引地区への適用 和歌山大学と和歌山市の協力とシンポジウム等市民の理解・支援を背景として景観法を適用する。またワークショップにより文化財保護法適用のための条件整理を行う。その上で和歌山県文化遺産課・地権者の協力で文化保護法の重要文化景観地区の指定を受ける。
超長期的目標 布引地区住民の自主規制による農地保全・歴史的景観保全 小・中学生を対象とする歴史的景観保全教育を長期間行うことにより歴史的景観を誇りとする地区住民を増やした上で、布引地区住民の自主性により農地保全・歴史的景観保全を超長期にわたり可能なものとしていく。



2 長期的展望の基での景観保全活動継続

景観保全計画を有効なものにしていくためには、長期的展望をもって日常的に景観を保全していくための活動が必要である。換言すれば景観保全計画で策定されている景観保全を行なっていくための一定のルール(制度)・人・組織をつくりあげることが重要となる。景観保全計画の策定は今後の課題として、ここでは組織・人の形成について検討する。

・組織形成
和歌の浦フォーラムは、日常的に和歌浦の景観保全のための活動を行なっており(例 鏡山の保全、公共事業に対するアメニティの視点からの監視、玉津島神社境内の松の枯死への対応としての代替樹木の植樹等)景観保全組織は既に存在しているとしてよい。将来的には参加者の輪を拡げていくことが活動の公共性を高める上での課題となる。
組織に関しては英国のローカルアメニティソサイエティ(以下略称してLASとする)が優れた参考になるのでここでLASについて簡単に紹介する。LASはシビックトラストの下部組織で英国のいたるところで結成されている。活動内容は地域のアメニティの向上をもたらすあらゆる活動で、日常的に活動している。重要なことは、行政庁はLASを地域住民の意見を代表する組織と考えており、地域のアメニティを破壊する恐れのあるあらゆる行為に対してLASの代表者が公聴会等で発言することによって地域アメニティに悪影響をもたらす行為を全て実質的に阻止できるというところにある。このような背景にはLASに対する行政庁・住民の信頼感が形成されていることがある。和歌の浦フォーラムも地域住民からの大きな信頼を受けてLAS的存在になるような方向性が望まれる。

・人材の確保・養成
人材の確保養成については、景観保全活動の過程を通じて、また後述するワークショップ、シンポジウムの開催を通じて、地域の人達の景観に関する関心を喚起するとともに景観保全活動に参加する人達の中から賛同者を見いだしていくこととする。また小・中学生に対するフィールドを重視した体験型景観教育を長期的実施していくことによって景観保全活動に積極的に参加していく人材を確保・養成する。人材の確保・養成については、別途検討しているのでその部分を参照されたい。

表−2 和歌の浦フォーラムの活動目標・目標達成のための活動内容

短期 布引地区に景観法の適用が可能なように活動する。具体的には、景観保全計画を策定するとともにこれをひろく公開し、地域の人達の意見を組み入れ計画を修正し、より公共性のある計画としていく。
中期 策定した景観保全計画を実効性あるものにするために、継続的活動により、地域住民の景観保全に対する理解・関心を高め、地域住民の後押しで、先に策定した景観保全計画を基に、布引地区に景観法を適用していく。景観法の適用により、先述した形態規制・色彩規制が可能となる。
長期 布引地区に景観法の適用を受けた上で、文化財保護法に基づく重要文化景観地区の指定を受ける。このことによって、相当長期にわたる和歌浦東面の景観保全が可能となる。また和歌の浦フォーラムと小・中学校が協同して小・中学生に対する体験的景観保全教育を行い、景観保全に対する理解・関心を高め、将来的に景観保全行動を行なう人材を養成していく。



3 ワークショップ・シンポジウムの開催

先に述べたように、ワークショップの効果は大きなものが期待できる。しかしながら、本年度は活動のスタートが遅れ、準備不足のため、ワークショップは開催できていない。
ワークショップで検討を予定した内容を示すと以下のようになる。

1.布引地区の農地を対象とした景観法の適用
この場合、私権制限が前提となることから、絶対的土地所有制度を前提としている現在の日本では景観法が規定している土地所有者の2/3以上の賛成を得ることは大きな困難が予想される。しかし、将来的には文化財保護法の重要文化景観地区の指定を受ければ農地の固定資産評価が半減され固定資産税納入に際して有利になること等の情報を提供すれば景観法の適用も可能性はでてくる。あるいは景観法の適用は文化財保護法の重要文化景観地区の指定をうけるためのものであるから、規制は極力緩やかなものでよいので、農家が許容できる範囲を明確にすることも重要な課題で、ワークショップでの意見交換によって許容範囲を明確にすることも可能と考えられる。

2.農地利用計画の策定
また布引地区全体への景観法の適用は困難でも、景観保全に重要な地区を定め、そこに営農上重要な農地を集積させることによって、営農上影響の少ない土地利用計画が可能となる(例えば、米国で行なわれているTDRの制度を農地に応用する等)。これらのことを討議する場としてはワークショップは適切であり、大きな効果が期待できる。

・シンポジウムの開催
シンポジウムは和歌浦東面の歴史的景観の重要性を幅広い市民に理解してもらうため4回開催した。

シンポジウムの概要
1)和歌の浦・半世紀−松原時夫の写真をかこんで
  スライド映写とスライドをみた上での意見交換
11月26日
参加者15名
和歌浦アートキューブで開催
2)布引地区の見学会
  農業見学会、名草山への眺望ポイントの確認
12月18日
参加者12名
布引地区で開催
3)熊楠と和歌浦 2月11日
参加者80名
和歌浦アートキューブで開催
4)漱石と和歌浦 3月18日
参加者70名
和歌山県立図書館で開催

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