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テレワークの課題と「変化の芽」の可能性について

研究部長  安井 尚人

1.はじめに

働き方改革への取り組みのひとつとして推進されてきたテレワークは、新型コロナ感染症拡大(以下「危機モード」)のリスク回避として注目されている。

日本の経済や社会を突然の大混乱にさせた「危機モード」は、テレワークのハードルを下げるだけでなく、オンライン学習・診察等、取り残されてきた社会変革を後押しする「変化の芽」となっている。「仕事は会社でやるもの」といった古い固定概念から、「仕事には、オフィスはいらない」といった社会システムのパラダイムシフトも加速している。

今回の緊急のテレワーク導入は、これまで行ってきた企業の業務効率化(デジタル化)や人事制度改革(成果主義)が、いかに形式的であったことを浮き彫りにした感がある。模範的な集団重視の閉塞感が破れ、躊躇してきた働き方改革に「変化の花」が咲くかもしれない。

ここでは、テレワーク(特に在宅勤務)導入の格差問題と今後の方向と新しい価値について考察する。

2.世界を動かした感染症

図表1に、過去の世界的な感染症が社会の変革をもたらした歴史を示す。

14世紀に中央アジアで発生した黒死病(ペスト)は、モンゴル帝国の西方遠征によって欧州に拡散し、約3分の1の人口が死亡したといわれている。その結果、人手不足による農奴の地位の向上により、封建的身分制度が崩壊しただけでなく、ペストの脅威を防げなかったとして、キリスト教会が権威を失い、主権国家による近代化が誕生するきっかけとなった。

また、16世紀にスペイン人が新大陸に持ち込んだ天然痘は、先住民の帝国滅亡だけでなく、円滑なキリスト教への改宗の要因にもなった。

また、19世紀のインドから発生したコレラは、中東・アフリカ・東南アジアなどの公衆衛生の充実、20世紀のスペイン風邪は、第一次世界大戦の終結などのきっかけになったとも言われている。

今回の新型コロナウイルスは、グローバルな時代に発生し、圧倒的なスピードで世界中に拡散した。その結果、世界経済は混乱し、中国への生産拠点集中といったサプライチェーンの脆さも露呈した。

また、日本では、経済だけでなく、「できない」という理由で、先送りしてきた社会システムや働き方改革(特にテレワーク)への移行のハードルが下がり、真の生産性を追求する契機となる「変化の芽」が生まれてきている。

3.テレワークとは

テレワークは、1980年代後半にアメリカでパソコンの普及と女性の社会への進出に伴い注目された。日本では1990年代に遠距離通勤の対策として、「サテライトオフィス」としてNECが試験的に導入したとされている。

その後、バブル崩壊とともに取り組みが少なくなっていたが、ITやインターネットの普及や、働き方改革関連法案(2018年)に合わせて、効率的な働き方として注目され始めている。

1)テレワークの定義

テレワークとは、tele(離れた場所)とwork(働く)の2つを合わせた造語であり、「離れて働く」意味で、ICT(情報通信技術)を利用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方である。勤務を行う場所により、在宅勤務(自宅)、モバイルワーク(移動隙間活用)、サテライトオフィス(施設活用)勤務の3形態に分けられる。

一般的にテレワークは、多様な働き方や生産性向上のメリットがある一方、デメリットとして、業務管理やコミュニケーション不足などに対する懸念がある。

2)テレワークの導入の推移

図表2に、テレワークの導入推移を示す。

テレワークの企業導入率は、ここ数年20%以下であったが、「働き方改革関連法」の施行によって26%と増加している。

しかし、テレワーク導入の形態を見ると、モバイルワークが64%であり、柔軟な働き方である在宅勤務は38%、サテライトオフィスは11%と低く、ワークライフバランスの視点での導入に向けての課題が多い。

3)テレワークの海外普及動向

図表3に、テレワークの海外動向を示す。

最も普及しているのがアメリカで、テレワーク企業普及率は85%、利用者は20%、(フルテレワークは,その内34%)と高い数字を示している。従来からジョブ・ディスクリプション(個人の仕事範囲と責任が明確)によって、目標達成業績評価で報酬が決まる成果主義の人事制度の定着が要因である。

一方、ヨーロッパ諸国の普及率は、アメリカと比較すると低い。これは、イギリスは長時間労働の習慣がなく、フランスは労働者を保護する労働時間管理、ドイツではジョブ・シェアリング等、すでにワークライフバランスに成功している国で、特別に推進する傾向はみられない。

一方、日本を含むアジア諸国の普及率は、10%程度と低い。アジア諸国は、固定時間制度での労働意識が強いため、柔軟な働き方に対する理解が低く、普及を妨げる要因となっている。

4.テレワークの現状

テレワークの現状について、会社規模別、産業別の導入、及び導入しない理由を示す。

1)会社規模別テレワーク導入

図表4に、会社規模別のテレワーク等の制度導入の割合を示す(国交省:テレワーク人口実態調査2019年)。

「制度が導入されている」等回答した割合は、全体で19.6%であるが、1000人以上の企業では32%、中小企業は、15%以下であり、従業員数が増えるほど、導入の割合は高くなっている。

また、日経HR社の働き方改革の意識調査(2018年)によると、転職希望度が上がる制度として、副業・兼業の解禁(50.3%)、テレワーク(49.5%)となっており、テレワークの導入は重要な条件になっている。中小企業は、出産・子育て・介護により離職する人材流出防止や、多様な人材確保等の解決策として、積極的にテレワークを導入すべきである。

2)産業別テレワーク導入

図表5に、産業別のテレワークの導入の割合を示す(総務省:通信利用動向調査2018年)。

産業別にみると、情報通信事業、金融・保険業が約4割と高く、製造業、卸・小売業が約2割となっており、全体としては、19.1%で、2017年に比べ約5ポイント上昇している。

テレワークを導入している製造業の中には、対象を間接部門に限定、組織単位での適用、日単位や数時間単位での適用など、テレワーク推進の目的や方針により柔軟に対応している企業もある。一方、運輸・郵便業、サービス業、不動産業、建設業などの業種は、「接客や現場作業はテレワークできない」という固定観念に

縛られ検討していない企業が多い。

「現業ではテレワークはできない」意識から脱却し、働く人にとって、最も効率的で、働きやすい場所はどこかの視点で、急激なICT環境の変化に対応しながら実施範囲を広げていく必要がある。

3)テレワーク導入が進まない理由

図表6に、企業のテレワークを導入しない理由を示す。

主な理由は、「適した仕事がない」が約7割で、「業務の進行が難しい」、「情報漏洩が心配だから」がそれぞれ約2割となっている。

業務内容別で分類すると、業務システムが93%、管理方法が53%、人事制度が31%、環境整備が28%となっており、管理方法と人事制度を合わせると約8割となっている。

今回の緊急事態宣言によって、テレワーク導入が2ケ月の間で、約2倍となっている報告(厚生労働省2020年3〜5月)もある。これらの理由は、企業が積極的に取り組めば克服できる課題であり、積極的な試行が結果として、確実に、テレワーク導入のハードルを下げている。

4)テレワーク導入の効果

テレワーク導入をしている企業の目的としては、生産性向上と勤務者の移動時間の短縮が5割近くを占め、導入効果としては、「非常に効果があった」、「ある程度効果があった」との回答が約8割を占めている。

しかし、実際に利用する従業員のテレワーク業務の占有率(業務全体に対して実施率)の50%以上は7.3%であり、逆に5%未満は48.4%となっており、制度導入目的や効果と利用者の実態には大きな差がある。

テレワークの導入効果を自覚しながら実施率が上がらない要因は、潜在的な側面として、「上司には管理できない不満、部下には評価への不安」がギャップの要因になっているかもしれない。

5.なぜテレワークは浸透しないのか

今回の「危機モード」でのリスク回避策として、緊急的にテレワーク導入をした結果、優先課題が具体的に明確になっている。

1)危機モードから見る課題

図表7に、通常実施と今回緊急実施の比較を示す(国交省:新型コロナウイルス感染症対策におけるテレワーク実施実態調査2020年3月)。

緊急対応によって、「今回初めて実施した」は5%で、「したかったができなかった」が16%と多い。通常実施と緊急実施の課題を比較すると、「閲覧できない資料やデータ」が31.3%(17ポイント増)、「テレワーク制度が明確でない」が15.6%(11ポイント増)、「同僚・上司との連絡・意思疎通」が10.3%(5.5ポイント増)と多い。

これまでテレワーク化に躊躇していた企業にとって、今回の緊急導入により、阻害してきた潜在的な「3つ格差」が明らかになった。

2)3つの格差による課題

テレワーク化への課題としては、(1)情報のデジタル化、(2)人事評価制度、(3)社員間の「3つの格差」が存在している。

(1)情報のデジタル化の格差

アドビシステムズ鰍フ「テレワーク勤務」の調査では、テレワーク経験者の8割以上がペーパーレス化の必要性を実感し、紙書類の確認や捺印などで、仕方なく出社した経験があるとの回答は64%となっている。

「紙文化」は、従来からペーパーレス活動が行われてきたが、データ管理の効率化の目的が、資源保護やコストの面での枚数削減数が目標になってしまった。

また、「判子文化」は、社内の電子承認・決済、契約は、一部では普及しているものの、導入している企業は国内で4割といわれている。

今後、「紙文化、判子文化」から、デジタル化への脱却は、現代のビジネススタイルの常識である。緊急のテレワーク導入によって、デジタル化が先行し、その結果としてペーパーレス化、脱判子化が達成されるといった通常とは逆のプロセスになる。このようなテレワーク導入可否が、企業間の生産性や働き方に、予想以上の格差が生まれるかもしれない。

(2)人事評価制度の格差

これまで、日本企業の多くは、成果重視への変革を行ってきたが、相変わらず努力を重視する人事制度から大きく変わっていない。しかし、テレワークが主な働き方になると、努力が可視化されにくく、成果の評価比重が高くなり、現状のマネジメントには必然的に変革が求められる。今までできなかった「成果主義」の導入は予期しなかった形で推進され、雇用のあり方の構造的な変革は避けられなくなってきている。その結果、管理者側は、部下に対して「在宅勤務の部下は仕事をしているのか、わからない」不満と、部下側の「在宅勤務者は評価が不当に下げられるのではないか」という不安意識の格差が課題となる。

まずは性善説に立ってお互いを信じることが重要で、「監視と報告」ではなく、誰が、いつ、どんな仕事をしているのか社員間で「共有する仕組み」を作り、「自由で生産性が高い働き方」という利点を欠点にしてはならない。「何時間間働いた」ではなく、「なんの成果を上げた」かが基本的な尺度になる。

成果主義は、部下側も多くのリスクを負う仕組みであり、逆にモチベーションが下がることも予期される。お互いが、「待ちの姿勢」から「積極的な姿勢」への意識改革が必要である。

(3)社員間の格差

3つの格差の「社員間の格差」としては、[1] 管理者と部下、[2] 立場の違う社員間、[3] テレワーカー個人の3つに分けられる。

[1] 管理者と部下のITリテラシー

  • テレワークでは、中間管理職のICTへの順応能力不足が、「コミュニケーションができない」などを口実にする抵抗が顕著に表れる。いわゆる「ITリテラシー」の格差によるマネジメント力の低下である。
  • その結果、オンライン会議のスムーズな運用への支障、発言しない人の顕在化など、これまではオフィスの中で誤魔化されてきた「ITリテラシーの格差」が明確に表れる。これについては、中間管理者のすべきことは「意識を変えよう」ではなく、「行動を変える」ことの方が簡単で、まずは、「学ぶより、慣れよ」である。

[2] 立場の違う社員間の意識

  • テレワークができずにオフィスで働く従業員に生まれる不満も見過ごすことができない。「本当に在宅でちゃんと仕事をしているの」の不満や、「全員が公平に評価されるのだろうか」の不安が、立場の違う従業員間に生まれてくる。
  • その為には、テレワークを選択できない人の給与を調整するのも一つの手段であるが、社内の意識改革と徹底した情報の共有化が必要である。「テレワークで得をするのは特定の人だけだ」という意識を「誰もが選べる働き方のひとつ」として、様々な職種の人にも体験してもらうことが必要である。ただ顔を合わせるオフィス以上に、情報の共有化や仕事を通じた新しいチームワークによる一体感や効率性向上の可能性を見える形にする必要がある。

[3] テレワーカー個人の不安

  • 在宅勤務者は、「オフィスにいる従業員を中心に仕事が回っている」、「公平に評価されているかどうかわからない」等の漠然とした不満や不安を抱いてしまうことも多い。
  • その為には、自立したテレワーカーとしての意識を持ち続けることが重要である。独りでいても高い集中力を保って業績を上げるのはもちろんだが、業務が滞ったときは上司や同僚に助言を求める主体性が求められる。
  • また、テレワークでは、気が緩んで時間だけが過ぎしまう、逆に職場環境から疎外されるため、長時間労働を招く懸念も指摘されている。
  • その為に、忘れてはいけないのが「雑談」の重要性である。息抜きになるだけでなく、相談しやすい環境づくりやチームへの帰属意識を高める行動が重要である。

6.今後の新しい芽

今後のテレワーク定着による新しい芽について、価値観、位置づけ、格差について考察する。

1)テレワークの新しい価値観

「テレワーク導入有無」の生産性への調査については、テレワーク導入有の企業の方が、労働生産性(付加価値額/従業員)で約1.4倍と高くなっている(総務省:通信利用動向調査2016年)。

また、単純な仕事ではオフィスで就業するのに比べ生産性が6〜10%低下するが、創造性を要する仕事では11〜20%増加するとした報告もある(2012年:ダッチャー)。

しかし、テレワークは、生産性のみで評価すべきものではなく、ポジティブ心理学者であるセグルマンのwell−being(人生に意義を見出し、自分の潜在能力を最大限に発揮している状態)の視点も重要である。テレワークの実施の有無に対する調査によると、実施者の方が仕事に対するモチベーションで2倍、幸福度で1.5倍となっており、well−beingの点でも優位性があるとの報告もある(レコモット:勤務形態別ワークライフバランスに関する意識調査2019年)。

今後、ミレニアル世代(IT環境に育った世代)に対して、テレワークのような価値観にあった柔軟な働き方を提供できなければ、優秀な人材惹きつけ、労働市場への競争力を維持することができない社会になっていることを認識しなければならない。

2)働き方改革のテレワークの位置づけ

図表8に示すように、働き方改革の3つの柱は、長時間労働の是正、多様な働き方、非正規と正社員の格差の是正である。特に多様な働き方の施策は、柔軟な勤務時間や勤務体制への取り組みが約6割を占めているが、テレワークの導入はわずか25%程度である(HR総研:テレワーク人口実態調査2020年)。

働き方改革の本来目指すべき方向は、生産性向上とワークライフバランスである。そういった意味では、今回の「リスク回避」としのテレワークは、本来の姿ではない。テレワークを導入した企業は、継続して実施し、生産性と生活の両立の方向を模索し、本来あるべき位置づけに移行しなければ定着は難しい。

3)新しい格差について

新しい社会システムが実施される毎に、大企業と中小企業の間には、給料の格差だけではなく、働き方の格差も発生する場合が多い。テレワーク導入は、このようなリスクも含んでいる。今後、テレワーク導入率が低い中手企業は、人材採用はさらに厳しくなる。

また、非正規社員はテレワークができず、正社員とは給料だけでなく、働き方の選択の格差が大きくなる。テレワークによって、オフィスでの集団の中では見えてこなかった非効率な業務や労働形態の違いによる「新しい格差」が見え、円滑な組織づくりといった根本的な課題の解決が求められている。

7.まとめ

今回の「危機モード」への苦肉の策として始まったテレワークは、日本人の働き方に「新しい芽」を生みだす可能性がある。テレワークは、単に在宅勤務だけでなく、生産性向上と多様な働き方として、全く新しいスタイルであり、日本の労働体制を根本から変革する要素を秘めている。

今後、都心の便利の良いエリアで社員全員が集まって朝から夕方まで時間通りに仕事する働き方の「あたり前」が変わり、「働き方のパラダイムシフト」のきっかけになるかもしれない。「テレワークの導入問題」は、会社のグローバル化の「議論のきっかけ」となり、「良い会社」の分水嶺となるであろう。

8.おまけ

日本テレワーク協会「テレワーク川柳」より、

(社会)

会社来い ハラスメントの 時代かも
何十年 通勤時間 何だった

(働き方)

通えない 弱者も勝者 テレワーク
テレワーク 実績評価 あまくない

(家族)

テレワーク 助かりますよと 宅急便
昼休み 床に大の字 ああ極楽
終業は 地域のメロディ 5時の声
隣室の 母の介護に 小休止
テレワーク 孤独と自由を 教えられ

9.引用文献

  • 1)読売新聞朝刊(2020年3月13日、13版)
  • 2)通信利用動向調査(総務省)
  • 3)テレワーク人口実態調査(国土交通省)
  • 4)多様な働き方実施状況調査(HR総研)
  • 5)テレワーク川柳(一般財団法人テレワーク協会)

(2020.8)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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