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少子化を考える

研究部長  木下 淳

日本の少子化が進んでいると言われて久しいが、それに対する有効な対策が打ち出されないまま、合計特殊出生率(15歳〜49歳までの女子の年齢別の出生率を合計したもので、1人の女子が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に生むとした時の子どもの数に相当する)の低下が続いています。

第1次ベビーブーム期[1947年〜49年(昭和22年〜昭和24年)]の出生数は、年間約270万人、第2次ベビーブーム期[1971年〜74年(昭46年〜昭和49年)]は、年間約200万人でしたが、2003年(平成15年)には、年間約112万人に減少しており、年により多少のばらつきはありますが、出生数が減り続けています。

合計特殊出生率も、1975年(昭和50年)から今日まで、ずっと人口置き換え水準(合計特殊出生率がこの水準以下になると人口が減少することとなる水準で、日本では2.08前後の数値が該当します。)を下回り、2003年(平成15年)には、1.29に落ち込み、戦後最低の水準となっています。

ところで、少子化になって日本は大変なことになる、衰退していくばかりである等々と言われていますが、そもそも、少子化社会とは、どういう社会をいうのでしょう。

内閣府が出している『少子化社会白書』では、『合計特殊出生率が、人口置き替え水準をはるかに下回り、かつ、子どもの数が高齢者人口(65歳以上人口)よりも少なくなった社会を、「少子化社会」と呼ぶことにする』と書かれていますが、この定義の通り、正に日本は、少子化社会の真っ只中にいるようです。

また、平成16年版の同白書では、日本の人口は、2006年(平成18年)にピークを迎え、2007年(平成19年)からは、減少すると予想されていましたが、予想が外れ、昨年の平成17年人口動態統計の年間推計で、日本の人口が約1万人、自然減に転じる見通しとなったことが分りました。

では、抽象的に少子化になって日本の活力は衰退していくだろうということはなんとなく感じられますが、少子化は、具体的にはどのような影響を日本社会に与えるものなのでしょうか。同じく、『少子化社会白書』では、次のように分析しています。

○少子化の社会的影響

単独世帯や1人親と子の世帯の増大等の世帯類型の多様化が進むとともに、児童数や小・中学校の減少、子どもの社会性発達に対する影響、地域社会の活力の低下など、様々な社会的影響がある。また、子ども自体の数や兄弟数の減少は、子どもが切磋琢磨し社会性を育みながら成長していく機会を減少させ、自立したたくましい若者へと育っていくことをより困難にする。

○少子化の経済的影響

生産年齢人口や労働力人口の減少を通じて、経済成長率等の経済の活力に対するマイナスの影響、消費や貯蓄に対する影響がある。そして、労働力人口1人あたりの社会保障負担も増加していくため、社会保障制度における給付と負担の公平や、現役世代の負担増を緩和していくための制度の見直しや給付の効率化が不可欠である。また、少子化や人口減少が進めば進むほど、それに対応した経済社会システムの構築が困難になる。

以上のような内閣府の『少子化社会白書』の分析からも分るように、少子化社会は、日本社会にとっては、ゆゆしき問題であり、日本社会の根幹を揺るがす問題であるということが理解できます。

このように、日本にとって大問題であり、何はさて置いても取り組まなければいけない問題であり、政府においても対策を講じているにもかかわらず、なぜ、少子化は進展しているのでしょうか。

一つは、未婚率の増加と晩婚化の進展が、出生率の低下に繋がっているといえます。

日本では、子どもが結婚により生まれてくる場合が大半であり、未婚率が増加すれば、少子化に繋がっていくことになります。男性の場合、25歳〜29歳では、1950年(昭和25年)の未婚率は、34.3%であったのに、2000年(平成12年)では、69.3%に、30歳〜34歳では、1950年(昭和25年)の未婚率は、8.0%であったのに、2000年(平成12年)では、42.9%に、女性の場合、25歳〜29歳では、1950年(昭和25年)の未婚率は、15.2%であったのに、2000年(平成12年)では、54.0%に、30歳〜34歳では、1950年(昭和25年)の未婚率は、5.7%であったのに、2000年(平成12年)には、26.6%に増加しています。

また、晩婚化は、出生年齢が上昇し、年齢的に多く子どもを生めない状況になり、少子化に繋がっています。1970年(昭和45年)代から2000年(平成12年)までの間を見ると、晩婚化の進展の速度が速くなっています。

次に、核家族化の進展、家族の小規模化による育児の孤立や育児の不安から、子どもを産むことを躊躇してしまったり、子どもの数を制限してしまったりする地域や家庭の子育て力の低下が上げられます。

次に、夫婦の出生力の低下が上げられますが、何が原因で夫婦の出生力が低下しているのでしょうか。「育児や教育に莫大な費用がかかる」、「仕事と子育てを両立することが難しい」、「夫の育児に対する参加が望めない」、「妻の精神的、身体的負担が大きい」、「老後を子どもに依存することがなくなりつつある」、「出産や子育ての機会における出費が大きい」等が、足枷になり、出生力の低下をもたらしていると思われます。

このため、これまでも政府は、「生まれてきた子どもの健全育成」、「児童手当、奨学金、税控除等」、「保育サービスの充実、育児休業の取得促進等」、「仕事と家庭の両立支援に関する企業の取り組み推進」、「男性の子育て参加促進や労働時間の短縮」、「地域における子育て支援」、「若者の就労支援」など、様々な取り組みを進めていますが、合計特殊出生率の低下に歯止めがかかっていないのが現状です。

少子化は、日本だけの現象なのでしょうか。合計特殊出生率について、世界の地域区分別では、アフリカが4.91、アジアが2.55、ラテンアメリカが2.53、ヨーロッパが、1.38、北アメリカが2.05となっています。

このように、経済が進展し、経済的に豊かになった地域で、合計特殊出生率が低下傾向を示しています。アジアにおいても、合計特殊出生率が2.00を下回っている国が2割程度存在しており、特に経済成長が著しい国でその傾向が顕著になっています。

2003年(平成15年)現在、香港0.94、韓国1.19、台湾1.24、シンガポール1.26、日本1.29となっており、アジアにおいて、中国のように一人っ子政策を取っている国は別として、日本よりも低い国があるというのは驚くべきことであり、比較的高い、タイでも1.80(2002年現在)となっており、2.00を大きく下回っています。

アジアの主な国・地域における合計特殊出産率の動きアジアの主な国・地域における合計特殊出産率の動き

資料:平成16年版「少子化社会白書」

ヨーロッパや北アメリカの国々を見てみますと、合計特殊出生率は、2002年(平成14年)現在、アメリカ合衆国は、2.01、フランス1.89(1993年1.65)、デンマーク1.73(1985年、1.45)、オランダ1.73(1995年1.54)、スウェーデン1.65、イギリス1.64、ドイツ1.31、イタリア1.26となっており、いち早く家族政策に着手したヨーロッパ諸国の内、フランス、デンマーク、オランダなどでは、合計特殊出生率が回復するなど、少子化対策に一定の成果が現れています。

日本と違って、デンマークやフランスでは、どうして、出生率の低下に歯止めがかかり、出生率の上昇が見られるのか、両国の具体的な政策はどうなっているのでしょうか。

まず、デンマークの政策を見てみたいと思います。

  • 出産前後に、父親と母親で併せて約1年(52週間)の休暇がとれる。(母親は、通常出産前後に6ヶ月ぐらい休暇をとり、その後は父親が休暇を取り、その間母親が職場に復帰していく。このように、母親と父親が相談しながら交代で休み、子どもを育て、職場で仕事を続けることができる。)
  • この休暇期間中、失業給付相当額を受給できることになっている。(労使間の合意に基づき、育児休暇全期間あるいは一定期間、実際の給与と同額を受け取ることができる。)
  • 保育所や託児所等に入れる制度が整備されており、2002年現在、0〜3歳児の58%、3〜6歳児の94%が何らかの保育サービスを利用している。(デンマークの通常の勤務時間は朝8時から午後4時までで、保育所や託児所は通常朝7時から午後5時まで子どもを預かってくれるため、子どもの送り迎えに行く時間的余裕が確保されている。費用負担については、親の負担が最大30%程度で、70%程度は地方自治体が負担する。)
  • 手当て
一般家族手当
(1999年)
給付対象は第1子以降で、給付期間は18歳未満で、所得制限はない。
(0〜2歳月約16,000円、3〜6歳月約15,000円、7〜17歳月約12,000円)
普通児童手当
(1996年)
一人親、あるいは夫婦が共に公的年金を受給している親に給付。
(子ども一人当たり、年約78,000円)
特例児童手当
(1996年)
一人親に対する普通児童手当の補足として給付。
(子どもの数によらず、年約60,000円)
特別児童手当
(1996年)
一人親又は両親を失った子ども、あるいは親権が確立していない子供に給付。
一人の親又は両親が公的年金を受給している場合等にも給付。
(子ども一人当たり年約150,000円、両親共いない場合は2倍)
双子以上手当
(1996年)
双子が出生したことについて、7歳になるまで給付。
(子ども一人当たり、年約97,000円)
養子手当
(1996年)
養子となった外国の子供に給付(約557,000円)。
また、養子縁組にかかる費用の一部も給付される。

このように手厚い対策が講じられていますが、デンマークでは、所得税は約50%、付加価値税(消費税にあたる)は25%で、賞与も一般的になく、物価は日本と同等かやや高く、生活は楽ではありません。このため、女性が社会に出て働くことが、一般的になっており、女性の7割以上が仕事についており、就業人口の47%が女性であるとの統計数値が出ています。

とても、そのままデンマークのやり方を日本で採用するのは難しいと思われますが、参考になる点も多いと思われます。

次に、フランスの政策を見てみたいと思います。出生率を高めるためのいろいろな対策が講じられています。

  • 出産費用は、健康保険がきくので、特別なことがない限り支出ゼロ。
  • 妊婦が、労働法によって協力にサポートされている。
企業が女性を妊娠を理由に採用を拒否したり解雇することが、法律で禁止されている。

産休は、勤続年数の条件なしに適用され、産休が明けたら、産休前のポスト又は同等のポストにつかせなければならない。

出産前に1年以上勤務期間がある女性は、出産休業(第1子又は第2子については、予定日前6週間及び出産後10週間)明けから、児童が3歳に達するまで、育児休暇を取る権利が与えられる。
  • 手当て
育児手当
(1998年)
第2子以降の場合に、就労時間を調整する程度に応じた額を被用者であるか自営業であるかにかかわらず、最長36月(子供が3歳に達するまで)支給される。
(全面休業の場合は月約60,000円、法定労働時間の50%まで就労の場合は月約40,000円、法定労働時間の50%超〜80%までの就労の場合は月約30,000円)
家族手当
(1998年)
子どもは第2子以降、原則義務教育終了(16歳)まで支給される。子どもが被用者でない場合等には、19歳ないし20歳到着まで延長して給付される。
(子ども二人で月約16,000円、子ども3人で月約31,000円、子ども4人で、月約48,000円、子ども5人で月約65,000円、第6子以降1人当たりつき約17,000円)
補足家族手当 3人以上の3歳以上の子どもを養育する場合に支給。
乳幼児手当 妊娠4ヶ月から3歳まで支給。
新学年手当 6歳以上18歳以下の子どもが新学年を迎えるに当たって支給。
在宅児童保育手当 6歳未満の子どもを養育するために保育者を雇う場合に補助。
個別保育者
雇用家庭補助
6歳未満の子どもの保育を個別保育者に委託する場合に補助。
単親手当 単親が一人で子どもを養育する場合に支給。
  • 地域や職場に大小様々な保育施設があり、保育施設は大都市では満員状態であるが、最終的には何らかの形で子どもを預かってもらえる施設が見つかる。
  • 子ども3人以上の家族には、外出先(例:遊園地、動物園、プール、国鉄料金等)で、「大家族割引」が適用されることが多い。
  • 不妊治療:体外受精も4回までは保険適用。

このように、フランスでは、至れり尽せりの対策が講じられていますが、合計特殊出生率は、1993年の1.65から、2002年の1.89まで、回復したに過ぎない事から考えると、日本の少子化対策の前途は容易ならざるものがあるといえます。

日本の少子化対策の進むべき道は、デンマークのように、父親が育児について、現在よりもはるかに大きな役割を担うことを受け入れ実行できるような制度や仕組み、労働の倫理や企業の運営方法までも変える社会のコンセンサス作りを推進するとともに、国民が、子供を産み育てやすい環境整備が進んだという実感を持てなければ、少子化に歯止めがかけられないと思われます。

また、極端な言い方になるかもしれませんが、フランスのように、子供を産まないよりも生んだほうが得であると思えるくらいの子育てのための国の思い切った経済的な支援なくしては、これまた、少子化に歯止めがかからないように思われます。

【参考文献】
  • 『人口問題審議会報告「少子化に関する諸外国の取り組みについて」のとりまとめについて』
       平成11年6月 人口問題審議会
  • 「平成16年版少子化社会白書(概要)」 内閣府

(2006.3)
(執筆者の所属、役職等は発表当時のものです)

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