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和歌山で観光を学ぶ! ―観光学の発展を祈って―
和歌山県企画総務課長  岡 達哉
南方熊楠と学園都市
和歌山が生んだ偉大な人物、南方熊楠。彼について語れるほど詳しいわけではありませんが、熊楠が海外に渡り植物採集に没頭した地がアメリカのミシガン州アナーバー市、ミシガン大学がある学園都市だと本で知り、興味を引かれました。10年前に私が留学生活を送ったアナーバー市が、かの南方熊楠が1世紀以上前に暮らしていた地だったということに、何かしら感動を覚えたのです。
アナーバー市はアメリカ中西部、五大湖の近くにあります。北海道のような厳しく寒い冬の反面、夏は非常に暑く一面の緑に覆われる、人口11万人強ののどかな都市ですが、3万人以上の学生を有するミシガン大学がある学園都市でもあります。
さて、熊楠は若くしてアメリカに渡るわけですが、アメリカに着いた彼はサンフランシスコでしばらく過ごした後ミシガン州に移り、州立の農学校を退学後アナーバー市に移り住み、読書と植物採集を中心に生活を続けたと言われています。全米屈指の学園都市だけに、当時から大学の博物館などの文化施設のほか古書店なども充実していたらしく、熊楠はこの環境の中で、独学で学び思想を深めるとともに、市内を流れるヒューロン川周辺で様々な種類の植物採集を行ったようです。
ヒューロン川ほとりに集う学生達
ヒューロン川ほとりに集う学生達。撮影した5月初旬はまだ草木も芽吹いたばかりですが、夏の盛りには一帯がとても濃い緑に包まれます。
熊楠もこの川辺であらゆる生命に目を凝らしていたのでしょうか

旅では、たとえば土産物探しも大事な楽しみですが、見聞きするもの全てが新鮮な「空間」に身を置くことの体験、それ自体が大きな醍醐味でもあります。目を向けるとそこには、自分の慣れ親しんだ世界にはない自然や建築物で作り上げられた風景と、未知の生活を送ってきた見知らぬ人々であふれる空間が広がっています。熊楠も、様々な感動と興奮の日々をアナーバーで過ごし、その後の活躍につなげていったのだろうかと思うと、感慨深いものがありました。

私の留学先、ミシガン大学公共政策大学院の建物。
私の留学先、ミシガン大学公共政策大学院の建物。内部は決して綺麗ではありませんが、
一つ一つの建物が学部・院の特徴と個性を発揮しながら、街全体と一体的な風景を醸し出しています。
観光地の魅力の四大要素
旅先の空間の魅力、という話になりました。
今から10年近く前のことになりますが、運輸省(現在の国土交通省)の室谷正裕さん(現在は海事局総務課長)という方の調査研究によって、観光地の魅力の「四大要素」が明らかにされました。この研究は(財)運輸政策研究機構により公表されていますが、観光の専門家を対象にアンケート調査を行い、観光地の魅力を構成する要素を抽出し、統計的手法によって整理したところ、観光地の魅力は大きく分けて次の4つの要素によって構成されているという結果となりました。

(1)「賦存資源」
雄大な山や美しい湖、由緒あるお寺など、観光地にもともと存在する自然系・文化系の資源(「賦」は天からの授かり物、の意味)
(2)「活動メニュー」
温泉浴や名物・特産品、スポーツ、教養文化活動、イベントなど、旅先の観光地で提供可能な楽しみ方
(3)「宿泊施設」
滞在の拠点であり、ホスピタリティが凝縮した形で表れる宿泊施設の魅力
(4)「空間快適性」
個々の資源ではなく、景観や街並みなど観光地の面的、空間的な心地よさ、その土地らしさ、情緒、雰囲気の良さ
これだけなら、整理するのはさして難しいことではない、と思われるかもしれません。しかしながら、この研究の成果でさらに面白いのは、これら四つの要素が観光地の魅力度全体に対して持つ重要度を、数値で示したという点です。すなわち、観光地の魅力全体を10とした場合、(1)の賦存資源が2.5、(2)の活動メニューが1.1、(3)の宿泊施設が1.7、(4)の空間快適性がなんと4.7を占める、ということを明らかにしたのです。つまり、観光客の目線から見た場合、観光地の魅力のうち約半分は、景観や街並みなどから感じられるその土地らしさ、情緒、雰囲気の良さにある、ということです。
この研究を踏まえて、いざ和歌山の観光の将来に想いをはせると、特に空間の「快適さ」、すなわち景観や街並みといったもののあり方についてはかなりの問題意識を持たないといけないかもしれません。県内でもたとえば湯浅町は、商工会や町も頑張って「ラビリンス」(迷宮)のような歴史的な街並みを守るための画期的な取組みを進めてきました。こうした調査研究や活動を支えるための学問の役割もますます大きくなっているのではないでしょうか。
人気の和歌山大学観光学科
ご承知のように、和歌山大学経済学部観光学科が4月に開講されます。
本稿の表題にある「和歌山で観光を学ぶ!」は、観光学部実現を応援する「和歌山大学観光系学部設置促進協議会(http://www.wadaikanko.org/)」のキャッチフレーズとして、県庁企画総務課の真田主任が作ったものです。これを合い言葉に、和歌山大学観光学部の実現に向け、和大の先生方などによる「観光学先取り講座」の県内各地での開催など様々な活動を行ってきました。
観光学科は、推薦入学に続いて一般選抜もまた極めて高い倍率となっているようです。受験する学生さんにとっては頭の痛いことでしょうが、人気の高さ、関心の大きさが数字で示された格好となっています。また、和歌山大学の発表(http://www.wakayama-u.ac.jp/admission/18hp/kanko19.pdf)によれば、観光学科の一般選抜(前期・後期)、特別選抜(推薦入学・社会人選抜)総計80名の枠を目指して志願している人達を、出身地別にみると、全国の47都道府県のうち実に45都道府県にわたっています。
和歌山大学の観光学科、観光学部は、全国各地からの学生と、世界中からの学生とで溢れる、刺激的な空間になりそうです。
観光学の発展を祈る
学問としての「観光学」というものが果たして成立し得るのか、ビジネス的な知識の詰め込みになりはしないか、という懸念をお持ちのむきもあるかもしれません。しかし、例えば街並みづくりのように、一人一人の個人の努力以上に大きなメリットを社会にもたらす外部経済を明らかにするための公共経済学的視点や、自然や泉源など限りある資源をどう持続可能な形で活かしていくかといった環境経済学的視点などを、観光という切り口で具体的に議論し、場合によってはケーススタディなどを実践することによって、理論経済学になじみにくい学生にも分かりやすく、身に付きやすくなることでしょう。また、生まれ育ってきた社会秩序の中で与えられた価値観に基づき行動し、決められたルールに従って皆生きていることを認識した上で、地域で平和に生きる人々の独自の文化や秩序を尊重することの重要性を理解し、その根底に「構造主義」的な考え方を突き詰めていく意義が見いだせれば、哲学との大きな接点をここに見つけることができるように思います。すなわち、観光を学問として究めることで、様々な学問のいわば応用分野としての発展が将来期待できるのではないかと思います。
学問としての価値もさりながら、観光学を学びながら地域間交流、国際交流を進めることで、様々な社会、集団に属して生きてきた多くの人々に触れ、さらにはそれらの人々を育んできたそれぞれの社会のシステムや固有の文化等を学んでいくことが、南方熊楠の多様な世界観と深く関わっているようにも思えます。
まだ社会経験の乏しい、逆にいえば柔軟性の高い若い世代にあらゆる好機が作り出されるよう期待して、これからも観光学部の実現を応援していきたいと思います。

アナーバー市の最寄りの空港には、関空からもノースウェスト航空などの直行便が出ています。一昨年の初夏に、旧友を訪ねるべくアナーバー市を再訪しました。試しにミシガン大学の図書館でも文献に当たってみましたが、熊楠に関連するようなものは何も見つけられませんでした。それでも、当時の彼の気持ちになったつもりで、学園都市という「空間」に身を置きながら風景や自然、建築物に目を凝らして歩いてみると、懐かしい土地があらためて新鮮に見えました。

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